残夢

私はずっと美しい男になりたかった女が好きなわけでは無いただ、ずっと美しい男になりたかったその造形を愛していた美しい女ではなく可愛い女でもなく美しい男になりたかったその骨も皮も筋肉も全部全部欲しかった美しい男にしか似合わない笑みも美しい男に…

逃げ水

脳みそが空っぽだと思った。「水飲む?」そう言って差し出されたペットボトルを受け取って、蓋が軽く開けられてることに気づいた。その気遣いに苛々する。苛々すれば感謝の言葉も発したくなくなって、目も合わさずに受け取った。受け取ったものの飲む気にも…

もう諦めて

「そういえば」一通り近況報告が済んだ後、男が思い出したように口にした。「あの人、結婚したらしいよ」「へ〜そんな気がしてたよ」「知らなかったんだ、仲良かったのに」「まあね」そう言ってグラスに残ったほとんど水になった氷を口に含んだ。さっきまで…

髪も切れない

今週のお題「叫びたい!」手が震えているのがわかった。『そういうのじゃないんだよね』もう目の前にいない人の言った言葉が何度も脳内を巡る。『そういうの』ってなんだよ。私の『好き』とか『付き合いたい』って気持ちが『そういうの』なのか?そもそも真…

本日はお日柄も良く

暗くなった窓の外を見ながら烏龍茶を飲み干して「私たち思ったより仲良いね」ってホテル取らなかったこと後悔した。

午前2時

目が覚めると泣いていた。いや、涙が出たから目が覚めたのか?どちらでもいいけどとにかく目が覚めたとき不愉快でたまらなかった。時計を確認するのも億劫だった。微かに雨の音がする。正しくは車輪が雨を切る音がする。薄暗い部屋でとにかく不愉快な私は見…

午前1時

今週のお題「爆発」夢だとわかった。なぜなら私はあなたといてこんなにも楽しい気持ちになったことがなかったから。あなたのことが好きで好きでたまらなかったけれど、あなたといる私のことは大嫌いで、一緒にいると苦しいばかりだった。目が覚めてから、私…

覚えていないこと

今週のお題「わたしのプレイリスト」部屋の掃除をしていたら前に使っていたiPodが出てきた。掌に乗せた時の薄さや冷たさは余りによそよそしくて、懐かしいというより初めましての気持ちだった。どうせ使わないし売ってしまおうと思い、売る前にはデータを消…

ご覧の有様

今週のお題「下書き供養」「私を殺してほしいんです」「は?」男は飲んでいたコーヒーのカップを危うく落としそうになった。なんとか持ち直し、目の前に座る女の顔を改めて見る。造形は悪くない、容姿で稼ぐことは出来ないが電車で隣の席に座ったときラッキ…

お気に召すまま

いつも通りだった。1ヶ月に2.3回の頻度も、前触れなく『今日』の約束を取り付けることも、その文言が『話したい』ということも。だからいつも通り返した。『いいよ』って。その一言だけ。いつも通り会話して、相手が寝落ちしたのを確認して電話を切った。そ…

お前らに何がわかる

今週のお題「〇〇からの卒業」その日は私の25回目の誕生日だった。日付が変わった瞬間から、ビニール袋を手にしている今までずっと悲しいままだった。目の前には病める時も健やかなる時もずっと私を支えてくれていたアイドルのグッズが所狭しと並んでいる。…

どうでもいい話

「なにか食べたいものありますか?」「どこに行きますか?」ほぼ初対面の人間に送った問いかけのLINEの返信が「○時に××で待ち合わせましょう」だけなのはどうなの?女はスマホ片手に顔を歪めた。これで行き先決まってなかったら最低だな…と思いながらわざわ…

泡沫

いつか会える、いつでも会えるは二度と会えないにとても近いものだと知った。新年の挨拶をして、今年もよろしくと言った翌日に連絡が取れなくなった人。次はどこに行こうか、旅行の予定を立てるだけ立てて仲違いした人。手を繋いで、体を重ねて、愛し合った…

地獄への道は

お題「#この1年の変化 」ゆっくりと、ゆっくりと、しかし確かに、摩耗していく。外に出ること、面と向かって話すこと、触れ合うこと、今まで「善」とされていたものが「悪」になって1年。朝起きて、準備して、電車に乗って、仕事をして、家に帰って眠る日常…

想像

今週のお題「チョコレート」自分が思っていたよりもずっと、甘いものが好きな男の人は多いのだと知った。ただ、私が思っていたよりもずっと、甘いものの値段を知らない男の人が多いのだと思った。私は人より経験が少ないし、大抵先人がしたり顔で書いたり言…

急行

毎日毎日飽きもせず乗っている急行を、今日は見送った。いつも通り急行の2分前に来る各駅停車を見送る時間にホームにいたのに。目の前に止まった急行を見つめることしかできなかった。これに乗らなければ仕事に遅れてしまう。足がすくんで動けないことも怖か…

想定内の地獄

今週のお題「大人になったなと感じるとき」初めてお酒を飲んだ日のことを覚えていない。そもそもアルコールなんて買おうと思えばいつだって買えた。大人でなくとも。初めてセックスした日を覚えていない。こんなもんかと思ったような気もするし、大人になっ…

記憶

優しくされた記憶はあるのに、優しくした記憶がないんです。たくさんたくさん優しくしてもらったのに。全然優しくできなかった。ずっとわがまま言って、可愛がってって強請るばかりだった。それに応えてくれていたのは、多分きっと私が本命じゃないからで。…

枝豆

今週のお題「自分にご褒美」もう口癖になっている「自分にご褒美」。服を買うときも、高いスイーツを買うときも、高いワインを飲むときも。まるで言い訳みたいに、言い聞かせるみたいに「自分にご褒美」。でも新しい服を身に纏っても、スイーツをお腹いっぱ…

忘れたい事

今週のお題「感謝したいこと」「人懐っこいよね!」「明るいよね!」褒め言葉を投げかけられるたびに私はそんな人間ではなかったんだよと言いたくなる。口では「ありがとう!そんなことないよ!」と言いながら、そうあるようにされたんだよと思う。人見知り…

体温

今週のお題「暑すぎる」人間最初に声から忘れていくらしいけど、体温はいつ忘れるんだろうね。日中刺すような日差しに熱されたコンクリートは、日が落ちた後も気温を下げなかった。家には飲み物も無かったが、先程ベランダに出た時に浴びた熱気は、徒歩5分の…

朧気

今週のお題「私の好きなアイス」アーカイブも消さなきゃ暑さに耐えかねて、目が覚めて、不機嫌な頭で思った。もう別れて半年経つ、顔も香りも曖昧な男の夢を見た。ぼんやりとした視界と頭で手探りでケータイを探した。軽いボタンを押して眩しい光を顔面に浴…

紫煙

今週のお題「外のことがわからない」外出することが(ある意味で)合法的に認められた。もう私たちはカラオケにも行けるし居酒屋にも行けるしテーマパークにだって行ける。行ってもいい。外のことがわからない。ベランダから見えた人影は別に1ヶ月前となんら変…

夏の誤解

今週のお題「好きなお店」「ここ私好きだったんだー」 彼女の目線の先には、いかにも個人経営といった風な居酒屋があった。一見が入るには中が見えなくて、入り辛そうな店だった。「あんたああいう店好きだっけ?」私の知っている彼女は、所謂インスタ映えし…

ここではない何処か

今週のお題「遠くへ行きたい」(遠くへ行きたい)まだ短いスカートを履いて、惜しげもなく生足を晒していた頃から、将来なんの役に立つのかわからない数式を眺めていた頃から、ずっと頭の片隅にあった。もしかしたらもっとずっと前、ピカピカの泥団子が宝石の…

きみはかわいいひと

今週のお題「自慢の一着」月に数回、多くても週に一度しか会えないから会うたびに違う服を着たかったんだと思う。3ヶ月に一回クローゼットの中身を全部出して服を捨てるのが習慣になりかけた頃、真新しい服を捨てなくなった事に気付いてハッとした。あの頃、…

夢で会えたら

今週のお題「会いたい人」会いたい人はまあ、すなわち会えない人のことだよなあ。と、夢占いと表示されたページを指でなぞった。精々財布くらいの大きさしかない電子器具は暗闇の中で私の顔を煌々と照らす。指をあと2、3度滑らせれば声も聞けるし顔も見られ…

紫苑

今週のお題「わたしの部屋」安いベッドと、安いカラーボックスと、大きな円卓。私のことを好きで好きでたまらなかった男が買ってくれたソファ。私が好きで好きでたまらなかった男が抱いていたぬいぐるみ。何度も何度も取り替えたシーツに今更思い出なんて一…

忘れた人の話

もう二度と会わない人の夢を見た。もう好きじゃない昔の人だ。風の噂で聞くこともない人だ。目覚めた時ひどく懐かしくて、私の頬を包んで上をむかせる手の温かさが生々しく思い出された。 すぐに俯いてしまう私を強制的に上向かさせて笑いかけて励まして甘や…

言葉

今週のお題「2020年の抱負」私はちょうどネットが流行り始めた頃の世代で、今では考えられないくらい重いパソコンの電源を入れて、数え切れないぐらいのブログや掲示板を巡った。あの頃はまだSNSも普及していなくて、Twitterはオタクのコミュニケーションツ…