もう諦めて
「そういえば」
一通り近況報告が済んだ後、男が思い出したように口にした。
「あの人、結婚したらしいよ」
「へ〜そんな気がしてたよ」
「知らなかったんだ、仲良かったのに」
「まあね」
そう言ってグラスに残ったほとんど水になった氷を口に含んだ。
さっきまで飲んでいたハイボールを極限まで薄めた味がする。不味い。どうせアルコールの味なんてどうでもいいんだけど。
知らなかったんだよ。
仲良いんじゃなくて仲良かったんだよ。
全部過去形だ。
私の世界だけが、進んでいなくてまだこんな安いチェーン店で不味いアルコールを呷ってる。
お前だけ、お前だけ進んでる。
もう何も入ってないグラスを握る手を離せない。悔しいのか悲しいのかわからない。
目の前の関係ない男を無茶苦茶にすれば気が済むだろうか。
目の前の男の、テーブルに置かれた骨張った細い手に自分の柔らかな白い手を重ねてやろうと思ってグラスから手を離した。
私だけが何も変わってない。
自分本位なところも、傷をつけるところも。